同一プランでも法解釈の違いで設計はこんなに変わる

避難安全検証法の法解釈は一定しておらず、審査機関や建設地によって大きく違う場合があります。
法解釈の違いが、基本設計に大きく関わる問題について、事例を通じて掘り下げてみましょう。

【事例】一般的な平屋の物販店舗のプラン

下図は、一般的な平屋の物販店舗のプランです。 これに避難安全検証法を採用し計算を行います。

室毎の条件設定表

室名称 火災室 面積
(㎡)
密度
(人/㎡)
人数
(人)
天井高
(m)
ql
(MJ/㎡)
内装 排煙
1 売場 1,050.000 0.500 525.000 4.000 480.000 準不燃材 無排煙
事務室 50.000 0.125 6.250 3.000 560.000 準不燃材 無排煙
倉庫 275.000 - - 4.000 2,000.000 準不燃材 無排煙
ゴミ庫 25.000 - - 2.500 2,000.000 準不燃材 無排煙
風除室 - 50.000 - - 4.000 - 準不燃材 無排煙

計算結果

この計算結果について、「解釈A」「解釈B」2通りの捉え方に基づいた方法から導き出される検証過程と結果をご覧ください。

【解釈A】一般的な平屋の物販店舗のプラン

居室計算からチェックします。

事務室がNG判定となっているので、この判定をOKにする必要があります。
そこで、避難時間よりも煙降下時間を長くするため、天井高さを上げます。また、内装材は不燃にして、煙発生量を抑えます。

内装不燃、天井高さ3,400として再計算した結果

OKとなりました。

次に階避難計算をチェックします。

ゴミ庫と風除室の煙降下時間が避難時間よりも短く、NG判定となっています。

1. ゴミ庫の煙降下時間について考えます。

ゴミ庫に地上に通じる出口が設置されているため、ゴミ庫出火→ゴミ庫での煙降下時間が算定されてしまいます。前室を設置し、ゴミ庫からは前室を介して地上へ出る計画とし、ゴミ庫→ゴミ庫の煙降下時間を算定しないよう考慮します。

ここで、前室1への煙降下時間結果を見てみます

これでは各火災室からの煙降下時間の方がまだ避難時間よりも短いので、扉D6と追加扉1を防火設備1号にして再度計算します。

まだゴミ庫と倉庫からの煙降下時間が避難時間よりも短いので、扉D6と追加扉1を防火設備2号にして再度計算します。

各室とも、避難時間よりも煙降下時間の方が長いと算定できました。

2. 風除室への煙伝播計算について考えます。

売場から風除室への煙伝播を遅らせるため、売場と風除室間の扉D2を防火設備1号とします。

(1)(2)を踏まえ再度計算します。

倉庫の煙降下時間が避難時間よりも短く、NGとなります。

3. 倉庫への煙伝播計算について考えます。

(1)と同じく、地上に通じる出口が倉庫に設置されているため、倉庫出火→倉庫での煙降下時間が算定されてしまいます。前室を設置し、倉庫からは前室を介して地上へ出る計画とし、倉庫→倉庫の煙降下時間を算定しないよう考慮します。

ここで、前室2・3への煙降下時間結果を見てみます。

これでは倉庫・事務室・売場からの煙降下時間の方がまだ避難時間よりも短いので、追加扉2・3・4を防火設備1号にして再度計算します。

倉庫→前室3への煙降下時間がまだ避難時間よりも短いので、追加扉4を防火設備2号として再度計算します。

前室3への煙降下時間をみてみると、

避難時間よりも、煙降下時間の方が長いと算定できました。

以上により、階避難計算はOK判定となり、安全性能が確認されました。

【解釈A】に基づいて検証を行ったプランは下図のようになります。

【解釈B】一般的な平屋の物販店舗のプラン

居室計算からチェックします。

事務室がNG判定となっているので、この判定をOKにする必要があります。
そこで、避難時間を煙降下時間よりも短くするため、扉を追加設置し、歩行時間と扉通過時間を短くします。

再計算の結果

OKとなりました。

次に階避難計算をチェックします。

ゴミ庫と風除室の煙降下時間が避難時間よりも短く、NG判定となっています。

1. ゴミ庫→ゴミ庫の煙降下時間について考えます。

建基法施行令第129条の2 3項第5号には、「当該階の各火災室ごとに、当該火災室において発生した火災により生じた煙又はガスが、当該階の各居室(当該火災室を除く)及び当該居室から直通階段に通じる主たる廊下その他の建築物の部分において避難上支障のある高さまで降下するために要する時間を、当該階の各室の用途、床面積及び天井の高さ、各室の壁及びこれに設ける開口部の構造、各室に設ける排煙設備の構造並びに各室の壁及び天井の仕上げに用いる材料の種類に応じて国土交通大臣が定める方法により計算すること。」と表記されていることから、ゴミ庫で出火した場合のゴミ庫での煙降下時間は算定しなくても良いと読み取れます。このことからゴミ庫出火→ゴミ庫の煙降下算定は除外できると考えられます。

ところが、「建築物の防火避難規定の解説2016 P174-33に「居室」でなければ自室火災での煙降下を除外できない。とあることからゴミ庫→ゴミ庫の煙降下時間は考慮しなければならないとする審査機関もあります。実際の建物のゴミ庫で出火した場合、その入口からは煙が吹き出し、ゴミがあって歩けないであろうゴミ庫へ避難する在室者の安全性能を考慮しなさいというなんとも理解しがたい事になります。

このような場合、ゴミ庫の出入口を避難上有効とみなされない様に有効幅を600mm以下にする。ゴミ庫から地上への出口を設置しない。ゴミ庫から地上への出口を施錠管理する。といった対策が必要になります。

2. 倉庫→ゴミ庫の煙降下時間について考えます。

「2001年版避難安全検証法の解説及び計算例とその解説」P257の16の回答には、「階煙降下時間は、火災室から直通階段(避難階にあっては地上)への出口を対象に煙降下時間を計算しますが、上記のような直接火災室から地上に出ることができる出口を設ける方が避難計画上より安全であることが明らかな場合に限り、廊下よりエントランスに至る経路を主たる避難経路として煙降下時間を算出することも可能です。」と表記されていること、またゴミ庫は室内にゴミが雑多に置かれることが予想されるため、避難に適さないと考えられることから、倉庫→ゴミ庫の煙降下時間算定は除外できると考えられます。

3. 事務室→倉庫→ゴミ庫の煙降下時間

(2)の考え方同様、ゴミ庫の煙降下時間算定は除外できると考えられます。

4. 売場→風除室の煙降下時間について考えます。

風除室は売り場へ外気が直接入らないようにするための室で、たいてい売場と天井高さが同じで、天井近くまであるガラス建具で仕切られており、見通しの良い形状となっていることがほとんどです。ここで売場の居室煙降下時間に着目してみると、Ts=4.4137分となっています。それに対し、売場→風除室の階煙降下時間はTs=1.7306分となっており、居室の煙降下時間より階煙降下時間の方が短くなるという不可解な結果が算定されます。

なぜ、このような結果となるのかを考えます。

告示の計算に従うと、居室計算では基準点より1.8mまで煙が溜められますが、階煙降下時間算定時は、火災室から風除室に設置される扉の上端高さで風除室に伝播し、風除室の基準点より1.8mまでの煙降下時間を算定してしまうからです。

A:居室避難検証での煙降下時間算定図
B:階避難検証での煙降下時間算定図

一般的に、風除室は面積が小さく、設置される扉は1.8mを超えるため、上図Bのように売場で発生した火災による煙は瞬時に風除室に伝播し、煙降下時間が算定されてしまいます。
これは実際には考えられない結果です。そこで現実的に、売場と風除室は一体の室と捉え、同時に煙降下するものとして計算を行うこととします。

直接地上に通じる出口が売場に設置されていない場合でも、風除室が一体の室と考えると、地上に通じる出口を有することになるので、売場に直接地上に通じる出口があるものとし、売場での煙降下時間を算定します。

すると、売場→風除室の煙降下は算定除外と考えられます。

※売場と風除室を一体に扱える条件としては売場→風除室→屋外への見通しがよく、室内から風除室に入る扉幅より風除室から屋外に出る扉幅の方が広いことや、売場-風除室間の建具はパニックオープンとするなど、各検査機関によって見解が分かれるので注意が必要です。

また、上記により、売場と風除室を一体にする場合、風除室を考慮して居室計算を行う必要があります。

Tstart(分)=売場面積+風除室面積
Travel(分)=売場最遠点から地上、または風除室を介して地上に出るまで
Tqueue(分)=D2+D3+D4(風除室内での滞留は評価)
Ts(分)=安全側の計算として風除室には蓄煙できないものとする

(1)~(4)を踏まえて再計算した結果

売場と倉庫の煙降下時間が避難時間よりも短く、NGとなっています。

5. 倉庫→倉庫の煙降下時間について考えます。

(1)で述べたように、「当該火災室」自身での煙降下時間は算定しなくてもよいとされるため、倉庫→倉庫での煙降下時間は除外できると考えられます。しかし、「~当該階の各居室(当該火災室を除く)及び当該居室~」と書かれていることから、「当該火災室」に該当するのは「居室」のみであると判断されることがたまにあります。これを考慮すると、倉庫は「非居室」であるので、算定の対象室となってしまいます。これでは計算が成立しません。

ここで、倉庫に着目すると、奥に事務室が設置されています。基本的に居室計算はその居室を出た地点で避難は終了と考えられますが、それでは倉庫で火災が発生した場合の事務室の安全性の確認ができていないことになります。倉庫火災での事務室の安全性を確認するためには、倉庫を「居室」と扱い計算を行い、検証が成立していれば安全性が確保できていると考えられます。また、倉庫内では荷捌き作業が行われることを考えると「居室」と扱うのが妥当だと考えられます。「居室」と扱えば倉庫→倉庫での煙降下算定は除外できます。

居室計算を行う場合は、室内の用途ごとに按分によって在室者密度と積載可燃物の発熱量を決定します。左図のように倉庫内に「通路」「荷捌スぺ―ス」を設定して考えます。

※設定数値は設計者判断によるのでこの限りではありません。

また、ゴミ庫も地上への出口が設置されており、「非居室」であるため検査機関によってはゴミ庫→ゴミ庫の煙降下算定室対象とされます。ゴミ庫は居室と扱うのは妥当ではなく、また居室としても検証は成立しません。この場合、ゴミ置き場から地上への扉(D7)を施錠管理等とし、通常簡単に開放できない扉とすれば算定から除外できると考えられます。

6. ゴミ庫→倉庫の煙降下時間について考えます。

倉庫には避難者がいるので、倉庫での煙降下時間算定は行います。ゴミ庫からの煙を抑える必要があるので、D6を防火1号とします。

7. 事務室→倉庫の煙降下時間について考えます。

倉庫には避難者がいるので、倉庫での煙降下時間算定は行います。事務室からの煙を抑える必要があるので、D5・追加扉1を防火1号とします。

8. 売場→売場の煙降下時間について考えます。

(1)(5)で述べたように、売場→売場の煙降下時間算定は除外できると考えます。

(5)~(8)を踏まえて計算した結果

売場と倉庫からの煙降下時間は避難時間よりも短く、NGとなっています。

9. 売場→倉庫の煙降下時間について考えます。

倉庫には避難者がいるので、倉庫での煙降下時間算定は行います。売場からの煙を抑える必要があるので、D3・D4を防火1号とします。

10. 倉庫→売場の煙降下時間について考えます。

売場には避難者がいるので、売場での煙降下時間算定は行います。倉庫からの煙を抑える必要があるので、D3・D4を防火1号とします。

(9)(10)を踏まえて計算をした結果

避難時間よりも、煙降下時間の方が長いと算定できました。

これにて階避難計算はOK判定となり、安全性能が確認されました。

【解釈B】に基づいて検証を行ったプランは下図のようになります。

解釈Aと解釈Bの検証結果の比較

室毎の条件設定表

解釈A
解釈B

計算結果

解釈A
解釈B

検討図

解釈A
解釈B

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